平等ゲーム (桂望実)
- 2008/09/28(日) 00:24:53

(本の内容)
瀬戸内海に浮かぶ「鷹の島」。そこでは1600人が、全員平等。果たしてそこは楽園か、それとも……?
現代社会に蔓延する「平等幻想」をテーマに描く傑作エンターテインメント長編。
「鷹の島」と呼ばれるこの島に住む住民たちはあらゆるものが平等であり、仕事についても4年ごとにランダムに選ばれる仕組になっていました。
この物語の主人公は34歳の青年・耕太郎です。そんな耕太郎もまた新たに与えられた仕事に就いていました。
それは勧誘係という仕事で、「鷹の島」移住希望者の身辺調査をして、相応しい人物なら勧誘し移住の手伝いをするというものです。
耕太郎は勧誘係という仕事を通して、様々な人物に出会います。
特に世話好きで困った人を見捨てられず、耕太郎が"男おばさん"と称した島田が印象的でした。
もし島田が同じ職場にいれば心強く、そしてきっと仕事がもっと楽しいものになるに違いありません。
「鷹の島」で生まれ育った耕太郎は究極の平等社会の中で純粋培養された結果、俗世間を知らずお人よし過ぎて、その一方で己の理想に頑固者なのです。
相手の好意に耕太郎は断りきれず、つい流されてしまいます。
しかし、それが耕太郎の成長を促すことになるのです。
耕太郎が仕事をしていく中で絵の才能を見出されます。はじめは嫌々でしたが、それが転機となります。
絵が評価される喜びや達成感、逆に失望したときに起きる嫉妬や憎悪を糧に成長していくのです。
ところで34歳にしてこんな純粋無垢な人間ってまず有り得ないですよね。それもこのような特殊な社会で育ってきたからでしょう。
若ければともかく、自分の年齢とかなり近いので驚き、他人事とも思えませんでした。
耕太郎の成長小説としてだけではなく、究極の平等であるはずの「鷹の島」の歪みについても描かれています。
かつて島を出て行った耕太郎の姉である淑子と耕太郎の元恋人である礼子がそれぞれ外の社会での挫折を味わい、「鷹の島」帰島の申請を行います。
住民投票の結果、明暗がくっきりと分かれてしまいます。なぜその差が出てしまったのでしょうか?
格差社会における競争で疲弊してしまった人々と同様に、平等社会においてもそれが生じてしまいます。
全国民平等な世界を創りあげようと掲げかつて楽園と称された共産主義国家の崩壊がその例でしょう。その二の舞にならないように制度を作ったはずの「鷹の島」もご多分に漏れません。
一方で格差社会からこぼれた人々の敗者復活の場も必要だと思います。
若者ならともかく、ある程度の年齢に達した人にとって現代社会には立ち直るきっかけとなる場所が現代の日本にはないように思えます。
この小説で登場する森のような人々の為には平等社会も必要なのではないでしょうか。
その意味で、耕太郎が最後にチャレンジしようとしたある決意にワクワクしました。
読後感がとても良く成長小説としても、特に現代の格差社会に何らかの違和感を抱く人々にとってもオススメできる小説だと思います。
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この記事に対するコメント
こんばんは。
無競争の世界で育った耕太郎の葛藤が、リアルに描かれていましたね。
絵を媒介にしたのが、上手な気がしました。
夢かもですが、ワクワクできるラストが良かったです。
>藍色さん
こんばんはー
耕太郎という人物そのものはとてもリアルとは言い難かったのですが、特殊な環境下で育ってきたからこそなんですね。
そうした耕太郎や島に誘われた人々の心の葛藤がとてもリアルでした。
耕太郎の夢が"絵に描いた餅"にならないように願っています(苦笑)。
こんばんは。
私も耕太郎、成長したなあって思いながら読んでたんですが、今ふとそれを成長と読んでいいのか疑問に思ってしまいました。
確実に変わっていく耕太郎、良かったのかどうかってこれからにかかってるのかしら?
なかなか深い…
>ちきちきさん
なるほど。一般社会に近づいたことで変わっていった耕太郎は果たしてよかったのか、確かに明確にプラスになった物事は少ないですね。寧ろマイナスになったこと(故郷の島から追い出され、両親と一緒に暮らせなかったこと)が大きいですね。これから良くなるのか、さらに悪い出来事が待っているのか想像の中では何とかいい方へ解釈していますが…